リアルプロペラについての覚え書き(仮)
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1、はじめに

YSFS2014秋テストバージョンからリアリスティック・プロペラ(以下リアルプロペラ)が実装された。
まだ正式バージョンは出ていないが、現時点で分析したこと、わかったこと等を書いておこうと思う。
以下はYSFlightver20150226を使った分析です。仕様変更があればそのときは修正するかもしれません。

<注意>
・datにリアルプロペラを実装しない場合を、通常プロペラ、もしくは従来プロペラと呼ぶことにします。
・通常プロペラと、リアルプロペラにおける固定ピッチプロペラとは全く異なります。
・実際の飛行機における定速(恒速)プロペラの特徴、固定ピッチプロペラとの違い等については、ネットや文献等をあたって下さい。
・一部の説明の理解には高校レベルの数学および物理の知識が必要になります。

2、dat数値の意味

デフォルト機のP51のdatを例に説明する。

表1

設定 設定値 dat内説明 説明の訳もしくは私的補足
NREALPRP 1 Number of (realistic) propeller engines プロペラ(エンジン)の数。回転銃と同様にREALPROP 0、REALPROP 1・・というように追加するんだろう。たぶん。
REALPROP 0 NBLADE 4 1 argument. Number of blades. プロペラブレードの枚数
REALPROP 0 AREAPERBLADE 0.3m^2 1 argument. Blade area. About 1.5m length times 0.2m width, roughly. ブレード1枚あたりの面積
REALPROP 0 CL 0deg 0.2 15deg 1.2 4 argument. cl1 AOA1 cl2 AOA2 (Approximated by a linear function) ブレードの揚力係数を迎角の一次関数で決定する。0度で0.2、15度で1.2。
REALPROP 0 CD -5deg 0.008 20deg 0.4 4 argument. minCd AOAminCd cd1 AOA1 (Approximated by a quadratic function) ブレードの効力係数を迎角の二次関数で決定する。-5度で0.008(ここが二次関数の軸となる)、20度で0.4。
REALPROP 0 PITCHCHGRATE 90deg 1 argument. Maximum angular velocity that the blade can change pitch. (per sec) ブレードのピッチ可動速度(一秒あたり)
REALPROP 0 MINPITCH 15deg 1 argument. Minimum propeller pitch. ピッチの最小角
REALPROP 0 MAXPITCH 60deg 1 argument. Maximum propeller pitch. ピッチの最大角(MINPITCHと同じならば固定ピッチとなる)
REALPROP 0 KGOVERNER 0.05 1 argument. Governer const. Defines the reaction speed of the propeller governer. ガバナー(回転数を検出してピッチを変える装置)の反応速度を決めるらしい
REALPROP 0 GRAVITYCENTER 1.0m 1 argument. Distance from the rotation axis roughly 0.25m(spinner)+0.75m(prop) プロペラ回転軸から各ブレードの重心位置までの距離
REALPROP 0 LIFTCENTER 1.0m 1 argument. Distance from the rotation axis プロペラ回転軸から各ブレードの揚力中心(抗力中心でもある)までの距離
REALPROP 0 WEIGHTPERBLADE 20kg 1 argument. The weight of one blade. Probably something like this. ブレード1枚あたりの重量
REALPROP 0 CLOCKWISE 0 1 argument. This engine rotates clockwise. Argument is the zero-based blade index. よくわからん。値を変えてみても変化なし。
REALPROP 0 MAXPOWER 1590HP 1 argument. Maximum horse power or J/s エンジン最大出力
REALPROP 0 IDLEPOWER 30HP 1 argument. Idling horse power or J/s エンジン最小出力(スロットル0のときの出力)
REALPROP 0 RPMCTLRANGE 1000 3500 1 argument. Range of RPM for prop-lever position. 回転数を調整できる範囲。
REALPROP 0 SNDRPMRANGE 700 3000 この回転数の範囲でプロペラ音が変化する。設定が無ければ従来通りスロットルで変化。


〜番外編〜
設定 設定値 dat内説明 説明の訳もしくは私的補足
TIREFRIC 0.09 TIRE FRICTION COEFFICIENT ブレーキ無しでのタイヤ摩擦を定義。IDLEPOWERが0HPより大きい場合、ブレーキ無しで勝手に動いてしまうことを防ぐために追加された設定のようだ。



なお、リアルプロペラを設定したとき、プロペラ(エンジン)に関する従来設定の扱いは以下のようになる。

・PROPELLR →無効となる。ただし設定自体はないと音がジェット機になる。
・PROPEFCY →無効となる
・PROPVMIN →無効となる
・TRSTVCTR/TRSTDIR0/TRSTDIR1 →従来通り
・AIRCLASS HELICOPTER →設定すると全く推力がなくなる?

3、プロペラの推力計算方法、およびその妥当性の検証

小難しい内容なので、とばして4、に進んでもらっても結構です(笑)。

従来プロペラの推力は既に(参照先)により明らかになっているが、リアルプロペラについても同じように明らかにしたい。
そのため、次のような手順をとることにした。
1、YSFS内部のプロペラのモデルを推測する。
2、モデルに乗っ取って推力の計算方法を求める。
3、計算された推力と実際の測定結果を比較し、モデルが妥当かを判定する。

3−1、モデルの推測

YSFSのプロペラは、実際のプロペラとは違い、プロペラ回転軸からLIFTCENTERの位置で、全ての揚力と効力がを発生すると推測される。
以下ではそれを前提に計算式を立てる。

3−2、推力計算方法

まずはプロペラ軸回りのトルクの方程式を立てる。


h=馬力[HP](=IDLEPOWER+スロットル開度*(MAXPOWER-IDLEPOWER))
r=回転半径[m](=LIFTCENTER)
R=回転数[rpm]
D=ブレードが発生する、軸と直角方向の抵抗[N]
g=重力加速度[m/s^2]
とする。

1馬力=75g[N*m/s]
なので、
プロペラ軸周りのトルク毎秒[N*m/s]=75gh=D*(2πrR/60)
となる。これを変形すると
D=2250hg/(πrR)・・・式@
となる。

次に、ブレード翼面にかかる力の式を立てる。


vは機速、
wは、プロペラの回転によって半径rの位置に生まれる速度、
Vは、vとwの合成速度である。
w=πrR/30・・・式A
V=(v^2+w^2)^0.5・・・式B

αはブレードの迎角、
βは、(vとwが作る)空気流のプロペラ回転面に対する角度、
γはプロペラピッチである。
γ=α+β・・・式C
sinβ=v/V,cosβ=w/V,tanβ=v/w・・・式D

プロペラの推進力はLとする。
LIFTCENTERの位置におけるブレードの抵抗は、既に与えたようにDである。
L=lcosβ-dsinβ・・・式E
D=lsinβ+dcosβ・・・式F

(航空力学の初歩の本にも書いてある)揚力と効力の公式により、
l=Cl*V^2*ρ*S/2・・・式G
d=Cd*V^2*ρ*S/2・・・式H
Sは翼面積で、NBLADE*AREAPERBLADEに相当する。
ρは空気密度だが、YSFSの大気については(参照先)を参照されたい。

なお、Cl(揚力係数)とCd(抗力係数)は、αの関数であるが、
Cl=aα+b・・・式I
Cd=Aα^2+Bα+C・・・式J
とおくことにする。定数a,b,A,B,Cは、dat設定のCL及びCDにより決まる。

以上が基本的な前提となる。

最終的には私が何をしたいのかというと、v(機速)とh(馬力)とR(回転数)を決めたときに、推力Lがどうなるかを求めたい。
そこで、以下のようにする。

式FのDに式@、lに式G、dに式H、sinβとcosβに式Dを代入して変形すると以下のようになる。

150hg/(wρSV)=Cl*v+Cd*w・・・式K

更に、Cl及びCdに式I、Jを代入し、変形すると以下のようになる。

(Aw)α^2+(av+Bw)α+{bv+Cw-150hg/(wρSV)}=0・・・式L

これはαについての二次方程式であるから、解の公式によりαが求まる。

式Eのlに式G、dに式H、sinβとcosβに式Dを代入して変形すると以下のようになる。
L=(ρSV/2)*(Cl*w-Cd*v)・・・式M

式Lにより既にαが求まっているので、式I及びJによりCl及びCdが決まるから、式Mの右辺は全て埋まり、推力Lが求まる。

以上が、YSFSリアルプロペラの、推力の求めかたである。

3−3、測定結果との比較

・方法
空気抵抗のきわめて少ないdatを作成し、長い滑走路を走らせた。
リプレイファイルには機体の位置が時間ごとに記録されているので、速度およびそのときの1/加速度が測定できる。
機体重量/推力=1/加速度であることから、推力の計算結果から求まる1/加速度と比較することができる。
加速度ではなく1/加速度を比較する理由は、プロペラ機の推力が1/速度に比例することが多いため、グラフが直線状になって分かり易いからである。

・結果
(エクセルファイル)
3−2の推力計算方法から求まる1/加速度が、どの回転数、どの速度域でも測定結果とおおむね一致することがわかる。

4、高度とエンジン出力の関係

通常プロペラの場合、推力は空気密度に比例することが分かっている。リアルプロペラの場合はどうなのか。

・測定方法
マップのBASEELVを変化させ、3−3と同じ方法で高度による推力変化を調べた。

・結果
(エクセルファイル)
空気密度に比例して出力が変化するモデルと一致した。
エンジンの最大正味馬力は、MAXPOWERに空気密度/1.225を掛けたもの、ということになる。

※初期テストバージョンでは出力がどの高度でも変わらなかったが、20150202版から上記の仕様に改善されたようだ。

5、リアルプロペラの推力を計算するためのエクセルファイル

(エクセルファイル)
上のファイルは、3−2、の推力計算をエクセルで行うものです。
性能分析や機体制作にお役立て下さい。
なお、計算にMINPITCHとMAXPITCHは考慮しません。計算結果のピッチ角が可動範囲外のときは、当然ながら推力も間違っています。

・推力最大となる最適回転数を求めたいとき
回転数を変化させて計算し、推力最大となる回転数を探して下さい。

・プロペラピッチが固定されたときの推力を求めたいとき
回転数を変化させて計算し、ピッチ角γが所定の数値となったときの推力がこの解答となります。
固定ピッチプロペラや、ピッチが可動範囲外だった場合(MINPITCHかMAXPITCHで固定される)の推力計算はこの方法を用います。

上の二つはオートフィルで行う方法もありますが、ソルバーをいう機能を用いるとより楽かつ正確に求めることができます。

6、REFTCRUS、REFTHRLDとの関係

通常プロペラの場合、スロットル開度と速度と高度によって推力が一意に決まるので、これに関して語る必要はなかったのだが、
リアルプロペラの場合、設定した回転数、あるいは設定したピッチ角によって推力は変化する。
ならば機体の抗力係数を決めることになる、REFTCRUSおよびREFTHRLDの前提となる回転数、あるいはピッチ角とはなんなのか。

・測定方法
RPMCTLRANGE、MINPITCH、MAXPITCHの値を変え、同じ速度・高度・回転数でオートパイロットで飛行させたときの、スロットルの変化を確認する。

・結果
RPMCTLRANGEをいくら変えても、スロットルに変化はなく、この数値で決めているのではないことが分かった。
一方、MINPITCH、MAXPITCHを変化させると、スロットルの値が変化した。下に一例を挙げる。
ピッチ可動範囲0〜90deg:スロットル38%
ピッチ可動範囲10〜90deg:スロットル37%
ピッチ可動範囲20〜90deg:スロットル35%
ピッチ可動範囲0〜60deg:スロットル42%
ピッチ可動範囲10〜80deg:スロットル38%
ピッチ可動範囲30〜60deg:スロットル38%
・MINPITCHとMAXPITCHの平均値が同じであれば抗力係数は同じ
・平均値を最適ピッチ角(上の場合23deg)に近づけると抗力係数は上がる
この傾向は、REFTCRUSに近い速度で実験しても、REFVLANDに近い速度でも実験しても同じだった。

・推測
測定結果から、次の推測が立つ。
リアルプロペラの場合、REFTCRUSおよびREFTHRLDの前提となるのは、ピッチ角が(MINPITCH+MAXPITCH)/2であるときの推力である。

<補足>
REFTCRUS、REFTHRLDは、MAXPOWERに対する比率ではなく、出力=IDLEPOWER+開度*(MAXPOWER-IDLEPOWER)で表される開度である。

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